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探究テーマは職員室のコミュニケーションテーマ

9月30日(月)1年生の「SIMulationおおつち」大槌高校生によるテーマ発表会が開催された。

「SIMulationおおつち」とは?
大槌町と大槌高校は、大槌高校生が大槌町の地域課題を知り、解決策を構想する活動を通して、地域社会に対する視野を広げるとともに課題解決のための力を養うことを目的としている。

これから高校生が自ら設定したテーマについて解決案を構想していく。今回の発表会は、どうしてそのテーマにしたのかについて町議会や町役場の方々に発表する場、つまりSIMulationおおつちのキックオフのようなものである。この発表会まで、生徒も本当に頑張っていた。しかし今回の記事は、週5日先生方と一緒に働いている高校コーディネーターの立場から、生徒に負けないくらい本気で取り組んでいた先生方にスポットを当てて書いてみようと思う。

テーマ発表会開会式の様子(後ろ姿は町議会、町役場の方々です。)

【今回生徒が設定したテーマ】
①大槌町の学習意欲の高い中高生がその意欲を維持・向上するために必要な施策は何か
②大槌町の高齢者が本当に求めている福祉サービスとは何か
③大槌町のIターン者を増やすための効果的な施策は何か
④大槌町の自然環境に左右されない特産品の開発
⑤震災を経験していない世代が担う震災伝承の在り方とは何か
⑥災害時の犠牲者を0にするために必要な避難の在り方とは何か
⑦大槌町の公民館や集会所を活かした多世代の交流を生むための施策は何か
⑧大槌町の若者の地域コミュニティへの参加率を高めるための施策は何か
⑨大槌町の野生鳥獣被害を減らすための施策は何か
⑩大槌町の海ゴミを減らすための施策は何か

~テーマを設定するまでの1か月半、先生と生徒は何をしてきたのか~

①自分と選んだ分野とのかかわり(ストーリー)を言語化する
教育・福祉、環境保全、地域コミュニティ、防災・震災伝承、産業振興の5つの分野から自分が興味のあるものを選び、自分自身がそこに興味をもったストーリーを考える。

生徒自身が普段感じていることを言語化する(生徒が実際に作成したスライド)

②先生も全力で探究し、その内容を生徒に共有する
教育・福祉、環境保全、地域コミュニティ、防災・震災伝承、産業振興の5つの分野ごとに担当の先生が決まっている。もちろん、専門外である。それでも、先生たちが『そもそもなぜ(教育・福祉、環境保全、地域コミュニティ、防災・震災伝承、産業振興)が地域、社会に必要なのか』という問に迫った内容を生徒に共有した。

先生による探究プレゼン

③自分たちがアプローチしたいテーマに迫る
まず、フィールドワークを通して、住民の実際の声や、役場の職員の方々に実際の課題に対してどんな取り組みをしているのかをヒアリング。

フィールドワークの様子

その後、それぞれ集めた情報を共有し、アプローチしたい課題を決めていく。

グループワークの様子

④テーマを決定し、発表の準備

準備の様子

このような過程を経て、発表当日を迎えた。

発表の様子①
発表の様子②
発表の様子③

町議会や役場職員の方々から、たくさんのアドバイスをいただいた。生徒も次の問いの設定に活かそうと意気込んでいる。

~これまでの探究伴走をしてきた先生たちの声~

S先生(大槌高校1年目)
自分の担当しているグループのテーマについて、自分が一番興味をもって探究している姿になることが大事だと思いました。(苦しいときもあったけど…)どんな問いかけをしたら生徒が新しい視点で思考し始めるのかを考え、他の先生と何度も話し合ったことも初めての経験でした。生徒の伴走が上手くいかないなと悩んでいた時、学年のある先生に言われた、「少子高齢化など、なくなっていくものやないものばかりに目をつけたがる。あるものをどう生かすか、どうよくしていくかを考えていくことが大事なんじゃないか」という言葉が私は印象に残っています。
振り返ると、教科指導や何でもそうであるが、「できないものは仕方ない」とどこかで思ってしまっている自分がいたと気付きました。この探究の伴走をやり始めてから、自分の授業の方法で生徒ができるようにならなかったとき、「どうしたらできるようになるか」と自分自身も常に問いをもち、授業づくりをするようになったとも思います。今までの在り方を常に疑うようにもなり、どうしたら解決するかを考えるようになっています。

T先生(大槌高校1年目)
探究なので、あまり口出しせず、生徒に自由に試行錯誤しながら頑張ってほしいと思っていました。ですが、夏の探究学習の伴走についてのオンライン教員研修で、その考え方が変わりました。その研修で、実際に自分が生徒に伴走している姿を全国の先生方に見てもらったんですけど、その生徒が「先生が一緒に考えてくれて、アイディアを出してくれると次に進みやすい」という感想を話してくれたんです。そこで、対等な立場で「こういう方法もあるよね」「こういう考え方もあるんじゃないか」などこちらからも積極的に意見を出していくことが生徒も求めていることなのだと気付きました。それが、自分のなかでは結構大きな経験でした。夏休み明けから、自分の生徒への伴走の仕方も変わっていった気がします。
また、現場では自分の考えを表出することを苦手とする生徒もいます。その生徒の考えや想いをどうキャッチしていくか、それが今の自分の課題です。これは、「総合的な探究の時間」だけでなくて、学校生活のどの場面でもいつでも話そう!というwelcome感を出していくこと、何気ない会話を大切にしていくことがまず大事なのではないかと思っています。探究伴走の土台はやはり生徒との関係構築がベースだと思っているので、これからもその姿勢は大切にしていきたいですね。

K先生(大槌高校1年目)
教員になって4年目ですが、生徒の探究を伴走する経験は初めてでした。一番悩んだことは「主体的に生徒が学んでいく姿とはどんな姿なのか」ということです。生徒主体で学んでほしいけれど、それは生徒に丸投げし、ただ先生が傍観していることとは違う。だからこそ悩みましたし、今でも悩んでいます。
私自身が子どもだけでなく大人とコミュニケーションをとるときも、協調しようという気持ちが強くなりすぎて、自分の意見を言わず受け身の姿勢になってしまいがちでした。でも、探究の伴走では自分が主体的に生徒と関わらないと、生徒の思考が進んでいかない。そのコミュニケーションの取り方が私自身にとっての新しいチャレンジでした。また、今まで受け身の姿勢だったときには、生徒が発する言葉そのものだけを受け取っていましたが、今はその言葉を発した背景は何なのかについても問いかけるようになりました。そこに、生徒の主体性につながる何かが隠れているのかもしれないと思うようになったのも大きな変化ですね。

R先生(大槌高校1年目)
これまで、生徒の知りたいこと、聞きたいことなど思考の整理の伴走をする経験があまりなかったので、すべてが初めての経験でした。数学の授業では、”自分が知っていることをわかりやすく伝えるにはどうしたらよいか”についてずっと考えてきましたが、この伴走はそうはいかない。解がないからです。だから、手探りで先を見通せず、どこに向かえばよいか分からないことが不安でした。生徒とともに学んでいくうちに、『どんな問いを生徒に投げかけていけばよいか』と考えるようになりました。自分自身が常に思考している状態になった気がします。また、自分は震災伝承のチームを担当しているのですが、教科の違う先生とも『震災伝承はどうあるべきか』について職員室で深く話し合ったことも新鮮でした。生徒の探究テーマが教員の共通言語になっていくというか…。職員会議や打ち合わせなど場が設定されているところではなく、先生たちが真剣に語り合っている状況が生まれていることは、私たち教員にとってもよいことだと思いますね。

インタビューした先生方

この記事を書きながら、こんなに前向きな先生方と一緒に働くことができているんだと改めて実感できた。探究学習を軸に魅力化を進めてきた大槌高校であるが、間違いなく先生の一人ひとりの探究心と生徒への想いが魅力化の大きな後押しになっていると思う。



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